仕事のパフォーマンスを向上させるメタ認知スキルの身につけ方

わたしはこれまで人事マネージャーとしての社員との面談や転職エージェントとしてのキャリア支援の場面でたくさんの仕事についての悩みを聞いてきました。

  • 仕事で同じような失敗を繰り返しがち
  • 上司や部下との人間関係が悪い
  • 自分は仕事ができているのに評価してもらえない
  • 自分なりに頑張っているのにうまくいかない

これらの類の悩みはあなた自身を取り巻く客観的事実を把握できていないことが原因で生じることが多く、本記事では解決策としてメタ認知の効能についてお話しできればと思います。メタ認知とは脳科学において自己の認知活動(知覚、情動、記憶、思考など)を客観的に捉え評価した上で制御すること、「認知を認知する」 (cognition about cognition) 、あるいは「知っていることを知っている」(knowing about knowing) ことを意味すると定義されていますがここでは脳科学としての学術的な意味ではなく、あくまでも人事用語として使われるメタ認知について話を進めます。

目次

メタ認知とはそもそも何なのか

メタ認知とは「メタ」つまり高次の次元から認知することを言います。これだとよくわからないと思うのでまず簡単に自分自身を客観的に認知・認識すること、と覚えておいてください。メタ認知はさらにメタ認知的知識とメタ認知的活動に分けて考えることができます。

まずメタ認知的知識とは自分自身や周囲の人、課題や目的などの変数に対する自分の良いところ、悪いところ、得意なこと、苦手なことといったあなたの特徴に関する知識のことです。いわゆる自己分析や内省などを通じて自分のことを知ろう、と言われているのはこのメタ認知的知識を獲得しようというのと同義です。

次にメタ認知的活動とはメタ認知的知識を把握した上で自分自身をモニタリンングすることやコントロールすることを言います。これにより自分の認知・認識が適切かどうかを確認したり、モニタリングによって把握した情報から課題達成に向けた戦略の選択や計画、修正をしたり、何か問題にぶつかった時の感情のコントロールをしたりすることが出来ます。

まとめると自分の言動およびその影響を客観的に把握しながら適宜状況に対応していく能力がメタ認知スキルということになります。

なぜメタ認知スキルが重要なのか

諸説はありますが一般的に人間の脳はバイアス(物事に対する偏った見方をする傾向)に囚われるものと言われています。例としては以下のようなものです。

認知バイアス:基本的な統計学的な誤り、記憶の誤りなど

感情バイアス:感情的な要因による認知と意思決定の歪み

確証バイアス:先入観に基づいて他者を観察して自分の先入観を補強しようとすること

正常性バイアス:自分だけは大丈夫と思うこと。特に自分に耳の痛い情報は入らない

心理学で使われるフレーミング効果(不適切な情報に影響されること)やアンカリング(意図的に一部に過大な重み付けをすること)もこれらバイアスの一種です。

バイアスに囚われていると仕事の中で様々な障害を引き起こします。具体例として、上司に叱られた際に、上司はあなたの仕事のアウトプットに対しての指摘をしているのにもかかわらず、あなたの人格そのものが否定されているように感じモチベーションの低下を招いてしまったり、考課査定の場面で自分は頑張っているのになぜ評価されないのかと思い会社や上司に対して不信感を抱いてしまい、それをきっかけに必要のない転職を考えてしまったりします。自分だけは大丈夫だろうと周囲からのフィードバックを聞かずに進めた仕事でトラブルをおこしてしまう、という社内のよくある風景もバイアスに囚われたことで引き起こされる障害の事例です。

このようにみなさんはバイアスによって常に認知が歪められるリスクを抱えており、このバイアスが起因となって仕事や会社での悩みを抱えます。この認知の歪みを定点観測しながら修正していく力がメタ認知に他なりません。そのためメタ認知能力を高めることが仕事のパフォーマンスの向上やストレスへの高い耐性にもつながるのです。

みなさんの仕事は大前提として「他人から評価を決められるもの」です。もちろん仕事の場面だけでなくプライベートにおいてもあなた自身のキャラクターは周囲からの認識によって作られるものですが、こと仕事においては周囲の認識によって評価され、それが年収や役職といったアウトプットに繋がってきます。そのため周囲からどのように見られているかを客観的に認識し適宜状況に対応していくことがとても重要です。

メタ認知スキルの鍛え方

メタ認知とは自分の言動を客観的に把握しながら適宜状況に対応していく能力であると説明しました。つまりまずは自分自身の言動を客観視するために正しい自己認識が必要になります。

自己認識は内的自己認識と外的自己認識から構成されています。内的自己認識とは自分の価値観、情熱、野望、理想とする環境、行動や思考のパターン・リアクションそして周囲への影響を理解する能力のことを指します。

また、外的自己認識とは外の視点から自分を理解すること、つまり周囲が自分をどう見ているかを知る能力のことを指します。外的自己認識に長けていると、他人の視点から自分自身を正確に理解できるため、信頼度の高い関係を周囲と築くことも出来ます。

自己認識にはこの内的自己認識と外的自己認識が正しく出来ている(自分自身を知ると同時に自分がどう見られているかを知る)必要があります。なお、自己認識は自分自身と周囲からどう見られているかを理解しようとする意志とスキルのこととされており後天的に身につけられるものとされています。

そしてこのスキルを身につける唯一の方法は周囲からの視点取得です。なぜかというと自分がどう見えているかについて唯一信頼のおける情報源は自分以外の他人だからです。また、このスキルは言い換えると、周囲の人の思考や感情を想像する力のことです。

自己認識とは自分自身だけではなく周囲からの視点も含め、二つの異なる、そして時に対立さえする観点からの情報が複雑に織り交ぜられたものであるため周囲からの視点取得が必要不可欠なものになります。そして周囲からのフィードバックは一回貰えば良いものではなく、大切なのは継続的にフィードバックを取得することのできる環境を作り上げることです。

ただし、フィードバックには時に提供した人からの拒否や拒絶を引き起こす可能性があるため、あなたに近しい人たちでさえ、そうした情報を進んで伝えてくれることはありません。そのため自らフィードバックを求める人を探し出し、主体的に依頼をする必要があります。

なお、フィードバックを受け取る際にふたつ注意し避けていただきたいことがあります。ひとつはあなたのことを考えずにただ批判だけをする人にフィードバックを求めること、もうひとつがフィードバックによって直面したあなたにとって不都合な事実から目を背けることです。

現実を知り、それを受け入れるべく尽力するかどうかは自己認識をしているひとと、ほかの全員とを分ける大きな違いの一つです。自尊心の低さと混同する人が多い謙虚さとは、自分の弱点を理解し正しいあり方から目をそらさないことであり自己認識にとって不可欠な要素です。

そして正しい自己認識ができるようになる仕組みをつくった上で、あなたの認識とフィードバックによって把握した周囲の認識のギャップから課題となりうるものを抽出し、その課題の改善策を考え行動を修正していきます。常にこの認識のギャップを見にいくクセをつけることであなたの行動は周囲からの期待からずれることがなくなります。

このようにメタ認知スキルは

  1. フィードバックを定期的に求められる体制を作る
  2. 自分と周囲のあなたの言動に対するギャップを認識する
  3. ネガティブなギャップを把握して行動の改善・修正を行う

というステップでモニタリングとコントロールのサイクルを回すことによって鍛えることが可能です。

メタ認知スキルの効能

これまでお話ししてきたようにメタ認知スキルを鍛えることで以下のような状態を作り出すことが可能になります。

  • モチベーションのセルフコントロールできる
  • 突発的な変化にも右往左往することなく柔軟に対応できる
  • 上司やクライアント、同僚の思考や感情が理解できている
  • 上司やクライアント、同僚があなたに期待することを理解できている

これらはいずれもあなたが仕事のパフォーマンスを向上させていく要素の一つです。仕事の成果は日々変化する取り巻くビジネス環境に適応しながら、周囲の人と協力体制を築き、クライアントや上司の要望に応え続けることによって初めて生み出せるものです。

そして仕事で高いパフォーマンスを発揮する人はすべからく自分を含めた仕事の全体状況を把握しトラブルに見舞われても同じ失敗を繰り返すことなく改善を繰り返し周囲の期待や要望を正確に汲み取り、セルフモチベートしながら目標を達成していきます。

みなさんもぜひ仕事のパフォーマンス向上の鍵となるメタ認知スキルを鍛え、キャリアの礎となる成果をたくさん生み出してもらえればとおもいます。

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